・・・




語弊を恐れずに言うならば。

俺は、彼女のことが苦手だった。





「こうしてちゃんとご挨拶するのははじめてですね」




9月下旬、テレビ局の一室。

今冬の連続ドラマの顔合わせのため、俺たちは集結した。


その前に朝の情報番組のゲストとして招かれていた俺は、ばたばたとこの部屋を訪れた。遅刻すれすれの俺の登場を皮切りに、ドラマの説明が始められた。



『星のない夜』


20年前に文学賞を授与された不朽の名作『星のない夜も、きみと。』を改題し、待望の実写映像化する。

月曜夜9時という随一の人気を誇る枠で、1月から放送される予定だ。


その主演に抜擢されたのが、俺と、彼女。




「あらためまして、春日野妃希です」




隣の席だった彼女は、顔合わせ後、ご丁寧に挨拶をしてくれた。

同じ事務所に所属する、直属の後輩という立場を気にしてのことだろう。


今まで、がっつり共演したこともなければ、事務所でさえごくごくたまにすれちがう程度だった。

本作のキャスティングを知ったときは、「おお、ついにか」と胸を膨らましたものだ。


彼女の噂は聞いている。
事務所が同じだといやでも耳に入るものだ。


妙に評判が高いらしい。


たしか高校1年生だったか。

どれだけすごくとも、成人している俺には、かわいらしい小鹿のように見える。




「雨ヶ谷丈だ。初主演同士、がんばろうぜ」




お互い、連ドラの主演を張るのは、今回がはじめて。親近感が湧いた。