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2年前。
その日はとにかく散々な一日だった。
一度運に見放されると、とことん恵まれないものだ。
通り雨に降られ、靴を踏まれ、髪がうねり、教科書は濡れ、ズボンの裾は汚れ……。
それに。
何か月もともに過ごすクラスメイトに、名前を間違えられた。
イッキって何だ。
ぼくの名前はカズノリ。
秋柴 一紀だ。
あげくの果てに……。
ポケットから新しく買ったばかりの財布を取り出す。
艶めいた皮には引っ掻いたような傷がいくつも刻まれ、小さめの長方形だった形はぐにゃりと変形している。
薄っぺらくなった財布を開けば、100円玉ひとつ、50円玉ひとつ、1円玉みっつ。中学生という身分にしたって、悲惨な中身だ。
元は、3000円入っていた。
それで参考書と小説を買おうと思っていた。
学校のいわゆるガキ大将に絡まれたら最後、カバンを投げられ、財布を奪われ、金を盗まれる始末。
ガハハと耳障りな愚弄が、今でも耳に残っている。
ムカついたし、それなりに抵抗もした。
……無駄な足掻きだった。
学年で一番図体も態度もでかいアイツには敵わない。
ぼくは学年で一番背が低い。
この冬を越えたら高校生になるというのに、160にも満たない。
そのくせ力も弱く、心も小さい。
オンナ以下だなとアイツにもからかわれた。
知ってるよ。
だけどさ、それとこれとは別じゃんか。
人にされていやなことをしてはいけませんって、小学校で習っただろ。忘れたのか、鳥頭め。
ぼくの金は、父さんと母さんがあくせく働いて稼いだ、大事な金なんだよ。
返せよ。
嗤うなよ。
なんでこんなことするんだよ……っ。