午前7時54分。



寸分の狂いなく到着した電車から、押し出されるように降りる。

濁りを帯びた人の波は、改札口を出るまで続く。


いつもならうざったく感じるが、今日は、都合がいい。

歩く意思がなくたって勝手に流れていくし。
生気のない顔をしているのはぼくだけじゃない。



狭い柵を通り抜けてしまえば、駅の広い構内に波が分散していく。とはいっても利用者数随一の駅の中は、変わらず混みあっているのだが。


わずかながら隙間が生まれ、圧をかけられなくなると、たちまち速度が遅くなる。



でも歩けてるだけえらいと思う。



憂鬱な月曜日。

きらいな時間割。

手につかない宿題。


健全な高校生ならこれだけで行く気を失くす。


加えて、ぼくには今、元気がない。

気分とか意欲とかの生半可な域ではなく、ガチで、真面目に、体調不良なのだ。



本当は休みたかった。

おとといの晩から布団にくるまり引きこもり生活していたように、今日も、世界のすべてを遮断したかった。


なのにちゃんと朝起きて、指定のブレザーを着用し、春休みまでの残りわずかの登校日にこうして人ごみにもまれながら通学している。えらい。えらすぎる。



――ただ、動機は不純だ。




「あ、春日野妃希じゃん」




ぼくを追い越したサラリーマンが、ぼそっと呟いた。
乗り換えまでの道の途中、細長い壁の一面に興味が向けられる。


過ぎたホワイトデーの広告だ。

ふんわりと巻かれた黒い髪の少女が、白と茶色の溶けあうハートを抱え、ほほえんでいる。


足を止める人が多いなか、彼はその程度なのだろう、すぐに前を向き直した。

ぼくはそういうわけにはいかない。通学なんか二の次だ。