「(先に行ってくれて構わないんだけど…)」




それを言葉にすればいい話だが、出来るわけない。先に行け、なんて言えるはずがない。



徐々に距離が縮まると、彼は大きな欠伸を見せた。


それにつられて、私もしそうになってしまう。




「お前も、寝不足?」

「まあね」




寝不足の理由、ほぼアンタのせいなんだけど。


チラリ、と細めで見てみれば、彼は二度目の欠伸をする。




「あーねみ」




追いつくと、神茂は私の歩幅と合わせて歩き始め、それと共に私の肩を軽く叩いた。




「カバン、持ってやろうか?」

「は?…いやいいよ。重くないし」




なに、この不自然な優しさは。怪訝に思いながら、カバンを持つ手に力を込める。


けれどそのカバンは意図も簡単に引っ張り取られて、




「いいから貸せ」

「あ。ちょっ………」




ヒョイッと自身の肩に持ち手部分を引っ掛けた。





「……そんな事しても、惚れたりしないよ」




そう言えば、神茂は一瞬ピクリと反応したように見えて



振り向いたかと思えば「うるせぇ」と、またしても顔を真っ赤にし、


ピアスを付ける耳までもが赤く染まる。



その違和感ありまくりの優しさは、


たぶんそういった理由なんだろうなと思って正解だったみたいだ。