彼女がマスクを外さない






「誰に言われたわけ?」

「へっ…!え、っと…」




一瞬驚いた表情を見せた恵美に、「ん?」っと違和感を感じた俺。


驚く内容では全くない。



…嫌な予感がする。




「………、武智くん…」




ピクリと眉が微かに動く。


小さな声でその名を呼ぶ恵美に、俺は眉根をより一層寄せた。




「…やっぱりアイツか」

「知ってたの?」

「知らねーよ。てかアイツなんなんだよ…」




ヤケに恵美に関わってる様子だし、この前は一緒に登校していたらしいし。


…恵美に好意があるしか考えられない。




「そいつに、言われたわけ?マスク付けると雰囲気大人っぽいとか」

「うん…、だから付けてみたんだけど…」




はぁ…っと俺は盛大に溜め息を吐く。




「(余計な事言うなよアイツ……)」




…でも、これでようやく理解出来た。恵美がマスクを付けていた理由。


キスしたくないんじゃないかって、そんな変な心配していた自分が恥ずかしい。




「心配して損した……」




力がなくなったかのように、その場にしゃがみ込んだ俺。




「え?なんて?」




そんな俺に、恵美もその場にしゃがみ込む。


「もう一度言って」と、耳を近づけてくれば




「……だから、」




俺はストレートヘアーのその髪にスルリと指を通す。