「あ!栄ちゃん栄ちゃん見てよあれ!」


「見てる見てる」


「感動だね~」


「感動というか綺麗だな」





大きな水槽、それはもう本当に巨大な水槽の前で
両手をあげてベタリとその水槽に張り付く恵美。




周りにいる子供と全く同じ事をしているのに気づいていない事がとても恵美らしい。





「あれ絶対刺身にしたら美味しいよね」


「まって食べる気?」


「冗談に決まってるじゃん。
ちょ、ドン引きしないでよ」





土曜日の午後。
ひっさびさのデートに俺達は水族館に来ていた。




この恵美のテンションの上がりようには大体予想はついていたが





「(またマスクかよ)」





まさかデートまでマスクを付けてくるとは予想外だった。




それ目当てでデートに誘った理由でもあるが
デートでも外さないのか。





「次あっち行こ、あのフワフワしたやつみたい!」


「あークラゲね」





俺の手を自然としっかり握って
グイグイと先頭に立つ恵美の後ろ姿を見つめながら俺は深い溜め息をつく。