「顔も知らないんすか?」


「知らない。名前も今初めて聞いた」


「えー…まじっすか。


じゃあ─────『一ノ瀬櫂』も知らないってことっすよね?」





一ノ瀬櫂



その言葉を聞いた瞬間、なぜかドキッと胸が鳴った。





「…………?」





なんだ?


なんで反応してんの私。





「……その人は知ってる。

あの映画の主演の人、でしょ?」





胸に違和感を覚えながらも、


平然を装ってそう言えば





「かぁー!!!やっぱ一ノ瀬櫂はすごいっすね!テレビ見ない安藤さんでさえも知ってるんだから!!」

「………そんなに有名なんだ?」

「有名もなにも!男の俺でもカッコいいと思う俳優さんっすよ!………あっ、そうだ!」





2本目の煙草を灰皿に押し潰すと、慌ただしく休憩室から出て行った慎二くんは何か長細い物を持って帰ってきた。





「これさっき郵送で届いたんすけど、たぶんこれ、あの映画のポスターっすよ!」





そう言う彼は、長細い箱を開けて中身を取り出す。



出てきたそれは慎二くんの言う通り、細く丸められたポスターらしき物で。





「ジャジャーン!!」





机の上に大きく広げると





「っ…!」





そのポスターを目にして



言葉が詰まった。