アイツがいなくなった場所に、今度は私が腰を下ろす。




(テレビでも、見とこうかな)




目の前のテレビに一瞬視線を当てて、リモコンを手に取った。



向こうの家ではほとんど見ていなかったけれど、この前のこともあってテレビの中の情報をチェックするべきだと思ったから。




リモコンを押せばピッ、と音が鳴り

テレビがつく。



流れているのは朝の情報番組で




(ちょうどいいや)




と、久々にテレビの画面を眺めた。




だけど


テレビをつけたタイミングが悪かったみたいで


すぐにCMへと切り替わる、その番組。




小さく溜め息を吐いて、
気にも止めずにそのCMを眺めていれば



それは少し前に駅前の大きな画面に流れていたCMで。




お酒を片手に、若い男の人が映るCM。


………私が、不思議な感覚に陥ったやつ。





(………あれ、この顔……)



思わず、崩していた姿勢を立て直すと




「あっ」




ブツッ、と画面が消えた。



(あれ、私間違えて押しちゃった?)



キョロキョロとリモコンを探せば、気づかないうちに私の隣に立っていたコイツが消した模様。


だって、手にリモコン持ってるから。




「なんで消すのよ」




立っている彼を見上げてそう言う。


あの不思議な感覚がなんだったのか、知りたかったのに。




「今の、見た?」

「え?」

「今のCM」

「見たけど…ちょっとだけね。アンタに消されたからほとんど見れなかった」




すると、なぜかホッと安心しきった顔をして




「ごめん、切っちゃって。俺テレビ見るのあんまり好きじゃないんだよね」

「あぁ、そうなんだ」

「凛は見たい?」

「いや……私もどちらかと言うと興味ない」

「そ?じゃあ、消しとこっか」




そう言うと、彼はリモコンをテレビの隅っこへと移動させた。


そのタイミングでチンッ!とパンの焼けた音がして、私はキッチンへと向かう。



テレビの音が無くなったこの空間はとても静かだ。



まあ、今までこんな感じで過ごしてきたから気にならないけど。