「なんでこの家にいるの?」
「なんでって…」
引っ越す準備をするために。
そう言うはずだったけど
そう言えば、住む気満々だと思われるのが恥ずかしくて
「………別に、いいでしょ。」
プイッと顔を逸らす。
だけど
「凛。」
「っ、」
逸らすな。と言わんばかりに、
頬に触れている手がそれを阻止した。
「俺、前に言った。
勝手に帰るのは無しだって。
言われたこと、覚えてない?」
「………………」
「黙ってたら分かんない。
覚えてないならもう一度言うけどさ、
凛の住む家はもーここじゃない。
それだけは理解して。分かった?」
きっとコイツは、私がこの家に帰りたがっていると思ってる。
そう勘違いさせてしまったのは、私が悪い。
私が素直に引っ越す準備をしに来たって言わないからだ。
少し前までは本当にこの家に帰りたいと思っていた。
一緒に住むのに抵抗があったから。
………だけど、今はその感覚が少し薄れているということ。
私の作ったご飯を美味しいと言ってくれたコイツに少し気を許してしまっている。
同居も悪くないかも、なんてそんな事を思ってしまっているんだから。
………少しだけ。
本当に、少しだけ。
居心地が良いと思ってるんだ。



