「おいまて!!!」





春は橋本の呼び掛けに止まることなく、エプロンを着たままの私を店外に連れ出した。





「ちょっとまって!私いま…!」


「仕事なら大丈夫だよ。
橋本さんが凛の代わりに働いてくれるから」


「いやダメでしょ!」


「大丈夫だいじょーぶ。」





春は簡単にそう言うけど
その前にまず店主に許可取ってないし…!




ちらりと後ろの様子を盗み見てみる。そこには店の入口付近で頭を抱える橋本の姿と、手を組んで目をキラキラと輝かせる慎二くんの姿。


それから……





「手振ってるし…」




何故かヒラヒラと、こっちに向かって微笑みながら手を振る店主の姿があった。




まるで……私達のこの行為を後押しするかのように。





「由紀子さん!」





唐突に春がそう叫んだ。



だけどその姿を確認する前に私は何かの中へ放り込まれる。



そしてスグに春が横にやってくると





「出して!」


「は、はい…!」


「うわっ!」





その言葉と同時に揺れ動くこの場。"急発進"したことによって構えてなかった身体がぐらりと背もたれに当たる。



景色がまるでジェットコースターのように素早く変わっていき、既に酔いそうだ。




どうにか吐かないように、窓の外、遠くの方に視線を当ててみる。


ふとサイドミラーに視線が向くと、この車に引っ付くような感じでついてくる車に違和感を覚えた。



その事に気づいているのは私以外にも二人いて。





「やっぱりついてくるよなぁ」


「撒きますか?」


「いや…いい。このままで」





ドアに頬杖をつき、私と同じようにサイドミラーで外の様子を伺っていた彼の瞳が私に向いた。





「せっかくだし、利用させてもらおっか。」





なんだかとてつもなく悪い顔をして。





「……あの、さ」


「ん?」


「なんなのこれ……誘拐?」





割と真剣に言ったつもりだった。



だってそうじゃん。


ワケわからないまま連れ出され、車に乗せられ、挙句の果てには誰かに追われ、今どこに向かっているのかすら分からない。


しかもそれ全部私の合意無しだし。




すると春の口元が緩くなる。





「誘拐、かなぁ?」





ふはっ、と笑って。





どこに笑う要素があったのか。全く理解出来ないまま誘拐犯と私を乗せた車はどこかへ向かう。



ナビ通りに動いているからどこか目的の場所に向かっているのは確かだった。