「……少しの間はまた会えないかもしれないけど、『その時が過ぎれば』こうやって悩むことも無くなるから。だから……3年が過ぎるまでの間だけ、我慢しなよ」


「3年?……ああ。聞いたんだ」





余計なことを。そう呟く春には呆れてしまう。





「そういう決まりなんでしょ?契約してから3年の間は芸能活動に重点を置けっていう決まり。色恋沙汰は起こさないようにって。

それを聞いた時おかしな決まりだなって思ったけど、理由を聞けばあの人の言ってることは正しかった。

橋本さんは……アンタみたいな俳優のためを思ってそういう決まりを作ったのよ。その道を選んだアンタの未来のために全力で動いてくれてるんだから、今はそれに応えるべきだと思う。」


「あの人はそうやって上手く言いくるめているだけだよ。俺、というか、俺らのことをただの商品としか思っていない。上手くいけば3年が経ってもこの監視は続くだろうし、あの人の言葉なんて信用するだけ無駄だ」





なんでこんなにも橋本さんに対して信用がないんだろうか。何かされた訳でもないのに。



どちらかというと、

何かをしているのは春の方で。





「あのねぇ…

アンタに対して監視が執拗いのは、アンタが決まりを無視するから。こうやって逃亡したり会いに来たり私を家に招待したりするから監視も電話の数も多くなるの。分かる?ちゃんと守っていたら橋本さんだって口煩く言わないのよ。

私に声を掛けるならもう少し待ってから掛ければよかったものを…」


「待てるわけないだろ」





ピリッと身体が小さく震えてしまうほどの荒い口調。


力強く掴まれた腕。





「腕…痛い」


「誰かに取られる前に手に入れたかった。
誰かに触れられる前に触れたかった。

俺を、早くその目に映して欲しかった。

こんな気持ちと誰かに取られてしまうかもしれない焦りを抱えて1年も待てると思う?」





緩めることなく、強さは増す。





「俺が凛を捕まえる前にもし他の男に取られたら?今日一緒に来ていたあの男だって例外じゃない。いつどこで誰と巡り逢うかなんて誰も分からないんだよ」





目の前には冷たい表情……いや、焦りに似た表情浮かべる彼。


もちろんその顔に笑顔はなく、目を見て話す彼の口調はとげとげしい。




私……何かまずいこと言った?

言ってないよね?




ついさっきまでは良い雰囲気だったのに




なのになんで、


コイツは今


険悪な雰囲気を醸し出しているのか。