彼は私の肩に腕を回すと、すっぽりと自身の胸の中に収めて抱きしめた。
「抱きつき癖があって、キス魔で」
「っ、」
「鬱陶しいと思われても仕方がないくらいに凛のことが好き。」
少し掠れた声が鼓膜を刺激した。ぞくりと震えた背筋は恐怖でだとかそんなんじゃなくて。
「……どう?
これでもまだ、一ノ瀬櫂だと思う?」
その声に弱い私は身体を火照ったように熱くさせる。
赤の他人だなんて思わせないくらいの距離。
近さ。
手を伸ばせば触れられるし、触れてくれる。
言葉と態度で愛を伝えてくれる。
瞳の中に、私がいる。
私は、そんな彼が───。
「……好き。大好き」
そっと背中に自ら手を回し、引き寄せた。
もっと触れられるように
もっと、ぬくもりを感じられるように
「私にこんなことを言わせるのは春だけよ」
遠く離れていた距離を埋めるように、
ギュッと。
「凛」
胸元に顔をうずめていると、春のどこか楽しそうな声色が降りてくる。
「りーん」
「……なに」
「抱きついてくれるのは嬉しいんだけどさ?
今、どんな顔してるか見せて」
……見せたくないからこうしてるんだけど。
こんなにも好きという感情を見せたのは初めてな気がするし、何回も「好き」って言葉言っちゃったし。
そんな甘々な自分が恥ずかしいから顔を隠してた。
なのにコイツはクスクスと楽しそうに笑いながらそう要望する。
私が恥ずかしがってることに気づいてるな、コイツ。ほんと……ムカつく。
「嫌」
「いいじゃん」
「嫌なものは嫌なの」
「見たいものは見たい」
「…しつこい」
「言ったよね?俺執拗い男だって」
「あと、」と話を続ける春は、肩に手を置いてグッと私を引き離す。そして────
「ムカつくくらい強引な男、なんだよね」
「っ………」
赤くなってる私を見て、満足気に笑みを浮かべるのだ。



