酔いしれる情緒



その行為がようやく止まったのは足に力が入らなくなった時だった。



地面に落ちた身体は息が上がってろくに呼吸なんて出来ず、それほど荒いキスを繰り返した張本人も私の前で腰を下ろした。



そしてその乱れた呼吸を落ち着かせるために彼が背中をさすってくる。





「………ごめん」




余裕のなさそうな顔。たったそんな表情でさえにもドキッと音が鳴る。





「こんなことをしたってまた凛を困らせるだけだって分かってる。分かってるけど…抑えられないんだ。

好きだから。大好きなんだよ。
絶対に手離したくないって心の底から思うほどに好きだ。

例え凛に怯えられていたとしても容赦なんて出来ない。離すつもりだってこれっぽっちもない。

……俺を遠ざけるものなら何度だってその身体に思い出させてやる。


俺は、執拗い男なんだよ」





その言葉通り、


彼は前と変わらず強引で

鬱陶しいくらいに私のことが好きで

キス魔で抱きつき癖があって、
どこか甘え上手で。




そんな彼が乱れてしまったのは紛れもなく私が目を逸らしてばかりだから起こったことで。





「あー…もう。違う、そーじゃない。」





大きな声ではないけれど、近くにいる彼には聞こえるくらいの声量で否定し、続けた。





「ちょっと手貸して」


「手…?」






差し出されるよりも先に彼の右手を掴んでは
そのまま自身の左胸へと当てる。



私のその行為に彼はギョッとした顔を見せた。





「え?!ちょ、凛っ…!」


「分かる? ここ、凄く煩いの。」






私はただ、知ってほしくて





「映画を観て、この目に本物を映した時からずっと。ずっと煩いの。……アンタの顔を見ると余計に」


「俺の…顔…?」


「今のアンタはどこからどう見ても一ノ瀬櫂なのよ」





その言葉を口にすると、彼の顔は分かりやすく曇った。


喜ぶところだというのに今の彼にとっては喜ばしくないことらしい。


そうなることを分かっていた上で私は続ける。