グッと力強く掴まれた腕に私は抵抗できるはずがなく、もし誰かに見られればカップルだと思われても仕方が無いような、そんな体勢のまま彼は言葉を続ける。
「こうなるから嫌だったんだ。見せたくなかった。好きな人に態度を変えられることがどれだけツラいか分かんねーだろ…」
シーンと静まり返るこの場所。見せたくなかったと言う彼は相当弱っている様子。
とても苦しそうに、心の底から絞り出したような。
ゆっくりと上げたその端正な面を歪ませ、いつもと違った口調でそう告げる。
彼は今、私だけしか見てない。
「凛」
「っ、」
「凛。」
「まって、だめ…」
耳元に落とされた口付けには身体が小さく震えた。
耳元や頬、首筋に何度も愛撫を繰り返す。
「早く俺を思い出して」
その言葉通り、
この身体に感覚を思い出させるように。
さっきまで違う女の人とのキスシーンを観たばかりなのに今じゃ同じ顔をして私にキスする。
優しく落とされた口付けに脳内はグラッと揺れるほどの衝撃を感じた。
一度離れた唇は急かすようにもう一度を繰り返す。慣れた手つきで後頭部に手を回されるとグッと深くなっていくそれ。
ここが路地裏だからって人目を避けられる訳でもないのに彼は我を忘れたみたいに熱い口付けを繰り返した。
心臓が煩い、だとか
橋本さんが、とか
伝言が、だとか。
言いたいこと、というか
言わなければならないことは山ほどある。
だからこそこの煩い心を落ち着かせてから
ちゃんとした言葉で話がしたかった。
なのに落ち着かせるどころか更に高鳴ってしまっている鼓動。
私は何かと彼に拍車をかけてしまうらしい。



