「で。その彼が今、
逃亡したのかこの場にいなくなったらしい」
「えっ」
「その逃亡理由に考えられることは一つだけ」
スっとたてられた一本指は「1」という数字を示し、橋本さんはニコリと笑う。
え、なに。
「春に会ったら伝えてくれます?」
「………自分で伝えたらいいじゃないですか」
「ご覧の通り、僕からじゃ彼には響かない。
彼が今信用しているのはあなただけですから」
面倒だな。そう思いながらも彼に信用されているんだと思うと嫌な気持ちにはならなくて、聞き耳をたててみる。
「その時が過ぎれば──────────────────ってね。」
伝言を伝えられた後、口元が自然と緩んだ。
独占欲。考えたくもないけど、その感情がいつも私の中で渦巻いてる。
私だけを見てほしい。
私だけのものであってほしい。
全てを知った。
知った上でアイツに対する気持ちが更に増した。
春が好き。
私にはもう、春しかいない。
「あの子がこんなにも一人の人に依存するなんて……あなたは一体何者なんだろうね」
やっと橋本さんから解放され背を向けた瞬間、彼はそんなことを呟いていた。
その言葉を耳にしながら
私は考えることなく堂々とこう言う。
「本屋で働くただの一般人ですよ」



