「作られた笑顔に興味はない、か…」
頭をわしゃわしゃと掻く姿は真面目そうな顔の橋本さんには不似合いで、
「……安藤さんが僕に仰りたいのは『俳優の一ノ瀬櫂は好きじゃないから安心しろ』ってことですよね」
おかしなことを言ってるって分かってる?
そう遠回しに言われていることに気づいていながらも気づいていないふりをした。
「はい。そうです」
「なるほど…」
「何か間違ってますか?」
「……間違ってはないんだけどね」
困らせてる。いや、もっと困ればいい。
この人のせいでいろいろとめちゃくちゃになったんだからそれなりの代償はとってほしいところ。
「僕はただ、彼との関係を断ち切ってほしいだけなんです」
「断ち切るどころか喋ったことすらありませんよ」
「いや、だからね。うーーーん…」
「話が通じない…」そう呟くこの人に、私は無意識にもクスリと笑ってしまう。
だって前は話の通じる人で通っていたのに今じゃ全くの真反対だ。
「橋本さん…!」
と。このよく分からない雰囲気の中に息を切らした由紀子さんがやってきた。
私の姿を見てぺこりと頭を下げていたけど
そんなことよりも!とどこか慌てた様子で。
「なに?」
「大きな声では言いずらいので…」
何かをコソコソと耳打ちする2人を横目に待つ理由もないし帰ろうと背を向けた。
まだ話が途中のように感じるけど。
(でもまあ、言いたいことは言えたし)
とりあえず、今は。
(─────早く、春に会いたい。)
一度想像すると会いたくてたまらなくなった。
きっと今は控え室にいるんだろう。
まだ、遠い場所にいる彼。
今度また私の前に現れる時はあの綺麗な瞳の中にしっかりと私を映して欲しい。
私だけを見てくれる、彼のそうなる瞬間がたまらなく好きだ。



