「あの、」
「はい?」
私の声に橋本さんは小さく首を傾げた。
その様子を下から見つめる。
「私、彼には興味ありませんよ」
「ん?」
「ああ、すみません。」
彼、じゃ分かりにくいか。
自分の言葉に一度反省し、
再び橋本さんの目をジッと見つめて
「一ノ瀬櫂"には"興味が無いって言ってるんです」
「興味がない?」
「はい。全く」
意味が通じていないのか橋本さんはもう一度首を傾げていた。
「えっと……同一人物だってこと分かってる?双子とかじゃないからね?」
「もちろん分かってますよ。同じ顔に同じ声。けど、同一人物であっても同じ空間にいた彼は別人のようだった。近くにいるのに遠く、目が合っては逸らされ、赤の他人だと言わんばかりの態度。
そして、あの笑顔。
─────私はあの人が好きじゃない。」
橋本さんの目がまん丸と綺麗に丸くなった。
おかしなことを言ってることくらい分かってる。
だけど、これは素直な気持ち。
同じ人間なのに別格に感じるし、
近寄るのでさえもなんだか恐れ多いし。
私はあの人が好きじゃない。
「春がどんな人であろうと春は春で、その春が俳優の一ノ瀬櫂だとか心底どうでもいい。」
カードホルダーなんて物に興味はない。
そこにはキラキラと輝くネックレスがある。
それは紛れもなく
「私が好きなのは春本人です。
作られた笑顔に興味はありません」
" 春のもの "だという証拠だから。



