酔いしれる情緒




「……相当暇なんですね」


「ん?」


「私に構ってばかり。社長なんだからすることなんて他に山ほどあるでしょ」


「まあ、そうですね。

無いとは言い切れないけど、その中でも
"これ"が最優先の案件ですから」





自然と眉根が寄った。




橋本さんが指さす方向にはもちろん私がいて


そして『これ』という言葉の向く先も、私。





────この人がここに私を招待した理由、それはもう言われなくても分かってる。





「…………さっき、私に一ノ瀬櫂のことを聞いてましたよね?」


「ええ。その目で見た感想を聞きたくて」






「何もかもが想像通りの人でしたよ。
近くにいるのに見えない壁があるみたいで触れられなくて。

テレビに映ってるときと同じで
手の届かない存在なんだと実感しました。」





橋本さんはこの言葉を待っていたんだと思う。



まるで想像通りに事が進んでいる、そんな顔でニコリと笑うんだから。





「その感覚、間違ってませんよ」


「………………」


「見る側と見られる側。立ち位置が全く違う」





「だから、」と続ける橋本さんは

軽く腕を組むと上から私を見下ろした。





「あなたじゃ釣り合わない」





揺らっと揺れたカードホルダーはその世界の関係者だということを示す証。




もちろん私の首元にソレはない。




私は違うから




棲んでる世界も見えてる景色も




" 彼 "とは違う。