酔いしれる情緒



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「…んどうさん。安藤さん!」


「!!」





肩を揺さぶられ、その感覚にハッと我に返ると騒がしかった会場は少しだけ静けさを取り戻していた。





「あっ……なに?」


「なにって、終わったっすよ?試写会。」





あれ………いつの間に。



確かに周囲には誰もいなくて、がらんとした劇場内には私と慎二くんを含め数人ほど。



舞台上には桜田紬や出演者、彼の姿はなく

ここの映画館のスタッフであろう人達が清掃に入っていた。





「早く出ないと怒られるっす」


「ごめん、急ぐ」





慌てて帰る準備をする。


すると言っても、カバンを肩に引っ掛けるだけなんだけど。






会場の外に出るとまだそこには沢山の人だかりがあった。


みんなここで感想を言い合っているらしい。





「安藤さんも見入ってしまったみたいっすね!俺も気づいた時には終わってて~まあでも紬ちゃんに手振ってもらえたし大満足っすけど!」


「良かったね」


「安藤さんも団扇持ってきたら良かったのに!そうすれば反応してくれるっすよ!!」





そう言って、どこからか取り出した団扇を私に掲げる。





「結構派手目にしてみたんすよね~ やっぱりそれが効果的だったみたいで────」





長々と何かを言っているけど私はその団扇を目にしながら違うことを思う。




こんな物を持ってきたって 春……いや、
一ノ瀬櫂は知らないふりをするだろう。





私とは一切関係ない。

知りもしない、今初めて会った。

赤の他人だ。





そういう対応を取られるだけ。





知らないふりをする理由は分かってる。




分かってるのに、


なんだかそれが凄く寂しくてツラかった。