少しすればこの場所の明かりがゆっくりと落ちていった。
薄暗くなった室内。
映画のスタートを感じさせるこの雰囲気に、私は久々ながらも胸が高鳴っていた。
「どうしよう!!ワクワクしてきた!!」
慎二くんは変わらず煩いけど、
その言葉には心の底から同意する。
どうしよう、すごく、楽しみだ。
スクリーンがパッと明るい色で染まった。
それが合図のように慎二くんも周りの人々も
みんな口を閉ざしてスクリーンだけを見つめる。
ゆったりと流れゆく映像。音。
──────人物。
「っ─────…」
その姿を見た瞬間に息を飲む。
スクリーンいっぱいに映る彼。
その姿はなんだかとても煌びやかで
瞬きをする暇さえ惜しくて。
(綺麗……)
自然と前のめりになってしまうくらい、流れる映像全てに自分でも驚くほど見入ってしまうのだ。
映画自体はあっという間にエンドロールを迎えた。
周りからは啜り泣くような声と目をハンカチで拭う人がちらほら。
隣にいる慎二くんだって小さな声で「激ヤバっす…」と呟きながら大号泣をかましていた。
そんな中私は涙を流すことなく、ただただ最後までこの目に彼の姿を焼き付けた。
桜田紬とのキスシーンは何度もあった。
キス以上のことだって、彼女の肌に触れることが何度も。
けど、街で見かけた予告映像を見た後のような心に黒い何かが渦巻くこともなく、身構えることもショックを受けることもなかった。
そこに映る一ノ瀬櫂の表情や目の細かな動き、
口調、手つきだって
同一人物な筈なのに私の知っている人とは別人のように思えたから。
ふわふわと柔らかな髪が揺れるところ。
色素の薄い綺麗な瞳。
顔も声も同じ。
だけど別人のように感じさせられるのは、
彼の演技力の凄さを表しているんだと思う。
観る人を完全に引き込んでしまう、そんな人にはこの煌びやかな世界がお似合いだ。



