「いつ好きになったんすか?」

「うるさいな…」

「否定はしないんすね!!」

「………………」

「あ、ちょっと待ってくださいよ!安藤さ~ん」





ちょうどいいタイミングで開場のアナウンスが入り、慎二くんをその場に放置してスタスタと歩いて行く。





只今12時30分。



13時から開始されるらしいそれに、大きなスクリーンを前にして私達も含めた参加者が続々と来場した。



平日だからか学生はわりと少なく、
私と同年代くらいの人が多い。





「俺の席は……えっ、まさかの隣っすね!!」


「(最悪。)」





近くもなければ遠くもない。そんな距離で壁際の並んで2席が私と慎二くんの枠らしい。


偶然にも程があると思う。最悪。





「あーードキドキしてきたっす!」





興奮気味の慎二くんはずっとソワソワと落ち着かないのか、意味も無く周りを見渡している。



そんな彼とは対照的に、私はジッと静かに目前の大きなスクリーンを眺めていた。





ドキドキというよりもワクワクの方が大きい。





小説は結局最後まで読めていないけど、


そうであってもワクワクするこの感じに





(私…楽しみなんだ。)





無表情ながらもその事実を感じ取る。





何が理由でこんなにもワクワクするのか。


本以外に興味を示さなかった私が何故こうやって試写会に来ているのか。



全部が何を意味しているかなんて、もはや考えなくとも分かりきっていること。




その全ては、




1人寂しい日々の中で


今じゃ不足しがちな部分を求めて


縋るような想いで、少しでも彼の存在を感じたいと思ったから。




紛れもなく、それが理由。





本屋にはこの映画の宣伝でなのか、様々な雑誌の表紙を飾る一ノ瀬櫂の姿が沢山あった。



その姿を見る度に、仕事中であっても私の想いは膨れて抱えきれなくなっていく。





本越しで

画面越しで


触れられないその距離で。





存在を知れば知るほど、私はあなたに近づきたいと思った。





心地のいいぬくもりを感じたくて

聞き慣れた声で会話がしたくて


強引なところだって、今じゃ少しばかり求めている自分がいる。




こんなにも1人の人物に依存するなんて、昔の私じゃ全くもって考えられないことだ。





…………こんな自分、最高に気持ち悪いかも。