思っていた通り、
唇を離した矢先にこの家の呼び鈴が鳴った。
「ほら、行って」
春に背を向け、鍵に手をかけた。
ヒヤリと冷たい感覚が指先に触れる。
モヤモヤがなくなってはいない。
スッキリもしていない。
離れる決意も、出来ているわけがない。
寧ろ鬱憤は溜まっていく一方だ。
ムカつく。腹が立つ。
時間があるなら罵倒したいくらい。
手放す気はない。
そう言ってたくせに……嘘つきって。
「…凛」
「早く行って」
「凛」
「由紀子さんが待ってる」
「凛」
「………………」
執拗いな。早く行けよ。
そう思いながらも
私が鍵を開けないのは、
ここから何かを期待しているからで。
「顔、見せて」
誘われて
言う通りにしてしまうのも
言葉通り、私の心はアンタにあるからで。
向き合えば、春は私の顔を見て一瞬目を丸くさせるとスグにふわりと笑った。
「なんだ、泣いてないのか」
生憎、そんな感情は持ち合わせてませんけど?
「残念。」
「(泣き顔見るために呼んだのかよ)」
クズだな。涙よりも舌打ちが出そうだ。
「いくら待っても涙は出そうにないんで、
さっさと行ってください」
「やけに早くサヨナラしたがるね?
久々に会えたばかりなのに。寂しいなぁ~」
「(お前に言われたくねーよ)」
真っ先にサヨナラを切り出したのはそっちだろうが。
通常運行に戻りつつある春に苛立ち、呆れて盛大な溜め息が出た。
なんかもう、アホらしい。
さっきまで落ち込んでいたコイツが
今じゃ口角を上げてニヤニヤと笑い始めたし。
キャラじゃないベタベタの愛の告白のようなことを言って、今更後悔。
─────でも、やっぱり。
その顔には笑顔が良く似合うなと思った。



