酔いしれる情緒







「顔になにかついてます?」

「っ!」




やばい。また見てた…!





「ご、ごゆっくりどうぞー!」




逃げるようにこの場から去ろうとするも、広くもなく狭くもないそんな店内に逃げ場所はひとつしかなくて。





「おわっ!?ビビった…って、安藤さんどうしたんすか?」





駆け込むように入ったその場所はストック置き場。


中には偶然にも慎二くんがいた。





「はぁ、ごめん、はぁっ…」

「そんなに慌てて変な人でもいたんすか?」





そう言って店内を覗き込む慎二くん。





「見た感じそんな人いないみたいっすけど」

「うん、はぁ、いないけど…」

「けど?」





聞かれても、答えられるわけがない。


一ノ瀬櫂のマネージャーがいるなんてこと。


言ったところで逆に意味不明に思われるだけだろうし。





(てか、なんで逃げて…)





逃げなくたって、相手は私が誰と一緒に住んでいるかなんて気づいていないし知らない。




けど、なぜだろう、




『橋本さんにバレると由希子さん以上に厄介』




春がそう言っていたから

自然と身体が動き、逃げてしまった。



寧ろ怪しくないか…?





「まあ何があったのか知らないっすけど、俺が代わりに店内出るんで安藤さんここお願いしまーす」

「…ああ、うん。ありがとう…」





気を遣ってくれたらしい慎二くんに軽く会釈をした後、私はズルズルとその場にしゃがみ込む。





………てゆーか、なんでここに?


マネージャーって付き人だよね?


春は今遠くに行っているわけで、だとすればマネージャーであるあの人も同じ場所にいるはずじゃ。





(春が嘘をついてる…?)





実は遠い場所になんて行ってないのかもしれない。


橋本さんがここにいるのだとしたら……春もこの辺りにいる?





(……ダメだ、また混乱する)





芸能関係について詳しくないんだから、分からなくて当然だ。寧ろ知らなくて当たり前。



どんな事情があろうとも、それは本人に聞かないと分からないこと。




そんな春は……いつ帰ってくるのか分からない。





(ああ、もう…考えたくないんだってば)





その日までモヤモヤと変な気分で過ごすのだけは避けたかったのに。