「春!」





トントン!と少し強めにドアを叩いた。


そこはもちろん春の部屋。


ドアが開くと、目を見開いてぼんやりとしている春がドアの隙間から顔を覗かせる。





「凛?どうし……」





聞かれる前に、


ドンッと春の胸へ

ある何かを押し付けた。





「これ」

「え?」

「いいから、これ!」





早く受け取れ!と言わんばかりにグイグイと押し付ける。


可愛げのない女だと思われても仕方がないけど、素直に従う辺りがすごく照れくさいんだってば…。





「………服の代わりに持ってっていいから」





服の代わりだとか言って春に渡した物はアクセ付ヘアゴム。


それは仕事用に使っているヘアゴムで、





「これなら手首に付けてられるでしょ。

だから……少しの間それで頑張って」





私が傍にいないと頑張れないって言うんだから


渡すとしたら、身につけてられる、

ソレしか頭に浮かばなかった。





「えっ……」

「他にないの?って文句は聞かないから」

「ううん、そうじゃなくて」





押さえつけていたヘアゴムだけど、


私の手に軽く触れた春は

ゆっくりとヘアゴムを手に持って





「すげー嬉しい」





いつものようにふわりと笑う。





「一生つけとく」

「……帰ってきたら返してよ」

「約束はできないかな」

「(いや返せよ)」





離れてる間、私の物がないと頑張れないって言うから貸してあげたんだってば。




帰ってきたら……もう必要ないじゃん。





(…私が傍にいるんだから)





なんて、絶対言わないけど。