酔いしれる情緒





「………『ガチャ』?」




思わず、たった今聞こえた音に疑問を持ちポツリと呟いた。



聞こえたその音は
玄関の方から聞こえたような…


だとすれば、玄関のドアが開いた音、だ。



その音はどうやら春の耳にも入っていたみたいで、私達はお互いに顔を合わせる。



『聞こえた?』

『聞こえた』



そう目で会話をして。



そして、ついには。




「春?」




どこからともなく聞こえたその声は、もちろん私達2人のどちらかでもなく、別の誰かの声。


それを聞いた春はギョッとした顔を見せた。




「………まずいな。」

「は?え、ちょっ……」




腕を引っ張られると、強引にも別の部屋へ連れ込まれる。


もちろん、春も一緒に。



え、なに。

玄関のドア、開いたよね?


「そういえば鍵閉め忘れてた」なんて、苦笑いを浮かべながら言ってるし。



てかなんでここに入れられたんだろう。


この感じも……なんだかデジャヴだ。




「は、」

る。


名前を呼びきる前、後ろにいる春の手によって口元を塞がれる。



「静かに」



耳元でそう囁かれると、誰かが部屋の中に入ってくる音がした。


薄らと引き戸の隙間から見えるその光景に息を飲む。





「あれ……いない。」





そこにはスーツを身にまとった男が1人。



ポケットから携帯を取り出すと、

誰かに連絡をとっているみたいで





「────あ、やばっ。」





焦る声の春から

ブーブー、とブザー音が鳴った。



その音のせいか、チラリと引き戸の隙間から見える男がこっちに視線をあてて




「そこにいるのか?」




私達のいる部屋へ徐々に近づいてくる。





「……来たけど」

「あー……」

「どうするの」

「んー……」





困ったような、そんな表情を見せる彼。





「まだちゃんと話せてないんだけどなー…」





深く溜め息をついたかと思えば





「っ!んっ……ぅ」





唐突にも触れるだけのキス。けれど一瞬の間に春の舌が滑り込んで口内を犯す。


その甘い刺激に頭がクラクラした。




(こんな時に…!)




今って、結構、ヤバい時なんじゃないの?





「っ、はぁ……」



やっとのことで離れると熱い吐息が漏れた。




そんな私の手首には何やら違和感。




なに、これ。


………動けないんだけど。




手首はいつの間にか布のような物で縛られていて、





「このままじっとしてて」





ニコリと微笑むコイツに「は?」と言いたくなった。