酔いしれる情緒





ああ、まだ、怒っているのか。意味不明の怒りをぶつけられているのか、私は。





「………………」

「………………」





ジッと見つめ合う、というか、睨み合う。



そんな視線を交じり合わせると、意外にも先に視線を逸らしたのは春の方だった。



フイッと逸らされれば、春はスタスタとソファーのある所に行って、腰を下ろた。



その様子を横目で見つめ、私は何事も無かったかのように作業を進める。


言いたいことは山ほどあるけど、とりあえず今はこっちに集中しよう。

今言ってしまえば料理なんてそっちのけで口喧嘩をしてしまう感じがする。


それからいつ、由希子さんが来るか分からないし。




春が同じ空間にいる。

しかも、2人っきりで。


ずっと待っていた状況、だけど


私はその状況に背を向けた。








「ご飯出来たよ」





少しして呼びかければ、春は小さく「うん」と答えて席に着いた。





「由希子さんは?」

「いないよ」

「今日はもう来ないの?」

「そうだね」





淡々と返事をする彼。



目を合わせようともしないし


どこか冷たい感じ、なのに。





「そっ…か……」





その態度にイライラするよりも、心がホッと安心してしまうのは何故だろう。





「………………」


「………………」


「………美味しい?」


「うん」


「そう…良かった」


「………………」









「……今、仕事、忙しいの?」



もっと他に言いたいことがあったはず。


なのに私が春に聞くことは他愛もない話ばかり。





「まあ、うん。ちょっとね」




春の返答は分かりやすく冷たいけれど、


向かい合って、2人っきりでこうやって話をすることが酷く嬉しくて……





「ご馳走様でした」





いつもより態度が冷たいのだから、食べ終わると自分の部屋に戻るんだろうなと思いきや、春は変わらず私が食べ終わるまで待ってくれた。




特に何かを言うことはなかったけど、



頬杖をついてジーっと見られては





「………っ」





なんだか恥ずかしさを感じる。




こうやって向かい合って食べることとか
普段と変わらないはずなのに




2人っきりとなると


春の視線を独占出来ている気がして



食べていた物が徐々に喉を通りずらくなり、食べ終わるのがいつもより遅くなった。