酔いしれる情緒



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「安藤さん?」




フッと現実に戻された意識。


目の前には、私を覗き込む慎二くんの姿。




「帰らないんすか?」

「……、……帰るよ」




どこかボーっとして
頭が回らなくて

ずっと目を開けていたくせに

慎二くんがいること、気づけなかった。



仕事だって……いつの間にか終わっていたし。





休憩室のイスから立ち上がると

身体がズッシリと重く感じる。


疲労?なのかな。


そうだとしても、
ちゃんと歩けているのだから
足が疲れているわけじゃなさそうで。



胸辺りが、なんだか重い。





勤務時間がラストまでだった私達は
いつものように一緒に店を出る。




「夜はやっぱり寒いっすね~!」

「そうだね」




慎二くんの言う通り、

暗闇に染った寒空の下

吹き渡る冷気によって
私の身体は冷やされていく。


寒い、と身を守るようにして肩をすぼめた。




「本当に大丈夫なんすか?」

「………ああ、うん。大丈夫だよ」

「ならいいんすけど」




慎二くんがこうやって心配するのは今日のあの出来事について。


突然現れた男に腕を引っ張られ、連れ去られる。


そんな状況を目の前で目撃したのだから、まあ気になっても仕方が無いと思う。




「勘違いされたみたいっすね。彼氏さんスゲー怒ってたみたいだし」

「だから彼氏じゃないって」

「え、じゃあセ」

「それも違うから」




セフレの文字が出る前に否定を示す。


いないって言ってんだろ。いい加減にしろ。



すると急に速度を上げた慎二くんがせかせかと私の前に立ち塞がった。