「私、今、仕事中っ…」
「はぁっ…」と息が切れて喋りずらい。
あまりにも早く歩くから
ついていくのがやっとだった。
「なんなの……用でもあった?」
こうやって本屋にくるのは久々だ。
いつも忙しくしていて
ずっと由希子さんがつきっきりで
2人で話すこととか、殆ど無くて。
慎二くんに元気がないと言われてしまうことだって、きっとそれが原因だと思う。
だからこそ
今のこの状況だとか
名前を呼ばれることだとか
そんな出来事でさえも、
今の私にとっては
心を満たしてくれるものなのに
「凛に触れたくて、限界だった」
なぜかこの時
春の目を見れなかった。
嬉しい言葉だけど、口調がやけに冷たくて
「でも凛は、俺じゃない誰かに触れられてた」
私を見るその目も
きっと冷たいんだろうなと
思えたから。
掴まれていた部分を離されると
ぬくもりも徐々になくなっていく。
私に向かって伸びてきた手は
頬に触れる直前で止まり、
「誰にでも心を許すんだね」
耳元で囁かれたそれは
確かに私を軽蔑するものだったと思う。