「なに、って…」





アンタこそ…なにしてるの?

なんでここに?

仕事は?終わったの?




まだ昼になる前の時間帯だというのに

想像もしていなかったことが起こった。




だからこそ、
聞きたいことが聞けなくて
開いた口が塞がらない。




慎二くんはこの場所で

一度春に会っているけれど



どうやらあの時と
今の春の見た目が違うからか
気づいていない。




だって、分かりやすく首を傾げてる。




見た目が違うと言っても

丸眼鏡は通常通りで。




眼鏡と帽子、


それから


いつも口元にあった
大きめマフラーの姿はなく、


マスクがそれの代わりなのだろう。





「えっ。ちょっと、」





グッと再び引かれた腕。



バランスを崩した身体は

歩き始めた春に引っ張られ、

ついていくのに必死になる。




さっきよりも強くて

掴まれている部分が少し痛い。





「ねえ、まって…!」





どこに向かっているのか分からないけど


立ち止まることの出来ない私は


私の腕を引っ張って
スタスタと歩いていく春に


ただただついていくしかなかった。




この本屋は広くもなければ狭くもない。



そんな場所を

スタスタと少し早歩きで歩くと

あっという間に出入口に着いてしまうわけで。





「春っ…」





出入口に着く前。



咄嗟に出た声は、
聞こえるかどうか分からないくらいの声量。




それでも春を止まらせることが出来たのだから



きっと彼の耳に届いたんだと思う。