「ご馳走様でした!」
私と由希子さんも食べ終えると、
春も同じように手を合わせてそう言った。
使った食器はいつものように私が洗い、由希子さんと春はまた仕事の話をしに部屋へと戻る。
……もう隠さなくたっていいのに。
仕事の話なんて、リビングですればいいじゃない。
洗い物を終えて水を止めれば
リビングはとても静かな空間に染まる。
ここには私だけ。
この時間帯にいつも傍にいる春の姿は、ない。
春は今、由希子さんのそばにいる。
「………はぁ」
溜め息をつき、私はいつものように部屋へと戻り、椅子を引いて本を手に取った。
私は本を読むことが好きだ。
読めていない本はまだ沢山あって
途中のものだってある。
読むことが好き。なら、今のこの時間だって本を読んでればいいだけのことなのに…
暇な時間の解決法は既に見つかってる。
……でも、なんだろう、
今の私は読む気力さえ感じない。
今私が瞳に映したいのは
綴られた文字、なんかじゃなくて──…
寂しさで溢れる部屋の隅にいる私は、開いたばかりの本を閉じて無意識にも天井を眺めた。
仕事の話って、
そんなに長々と話すほど大事なことなの?
今までこんなことなかったじゃん。
仕事の話は寧ろ避けていたし。
なのに今じゃ仕事のことばかり。
この環境がいつまで続くのだろうと考えてしまえば、気持ちはどんどん重くなっていく。
心の中でモヤッ…と霧がかかる感じ。
春に出会い、好きだと知り、好意を覚えてからよくこの感覚に陥ることがある。
春のことにならないと感じることの出来ない感覚。
私はこれがすっっごく嫌いだ。
何とも言えなくて、
解決策も見つけられなくて。
ただただ苛立ち、ムシャクシャする。
………この感覚が嫌いだ。
「……………」
そんな私は何かから背けるために目を閉じて
突如降り始めた雨音を聞き入れ、
少し肌寒いこの空間に
椅子の上で膝を抱えて身を縮こませた。
「寒い…」
本を読む時間すら与えてくれなくて
ベタベタと鬱陶しいほどに
くっついてくるあの時間とぬくもりが……
今じゃとても恋しく思う。