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「今日は暇っすね~」
「そうだね」
特にすることもなくなり、
私と慎二くんは2人並んでレジに立つ。
お客さんも今日はやけに少なくて
店内にいるのは見た感じ2人くらい。
「あの本のブームも終わったんすかね?」
あの本とは
一ノ瀬櫂と桜田紬主演映画の小説。
飛ぶように売れていたそれも、今じゃ落ち着いている。
「どうだろうね。ちょくちょく売れてる気もするけど」
「俺も1冊買っちゃったんすよね~ 安藤さんはもう読んだっすか?」
「いや、まだ。」
「えっ!?まじっすか!安藤さんのことだからだいぶ前に読んでると思ってたんすけど!!」
「恋愛系は興味なかったから」
「確かにあの小説結構濃い内容の恋愛モノっすもんね!あんなことやこんなことまで……あー!!想像すればするほど一ノ瀬櫂が羨ましい!!」
大きな声で喋るから「うるさい」と注意する。
ほら、お客さんもチラチラとこっちを見ているじゃないか。
「慎二くんと安藤さーん」
そんな私達に裏から店主がやってきた。
「今日はもう暇そうだし、早上がりする?」
「えっ!いいんすか!!」
「いいよ。これ以上忙しくなりそうにないからね。安藤さんはどうする?」
いつもなら断ってた。
いえ、最後までいますって。
それはちゃんと稼ぐため。
家賃やら光熱費やら、食費やら。
ギリギリの生活をしていた私は、少しでも多く働きたいと思っていたし。
だけど
今は
「……私も早上がりします」
この場所に残りの数時間留まるよりも、
春に早く会いたいと思った。
「了解。じゃあ13時になったら上がっていいからね」
「うっす!!」
元気よく返事をした慎二くんにもう一度「うるさい」と声をかける。
その声の大きさどうにかならないのか。