「出て行くなんてこと、考えてないよね?」





げっ、バレてた。



ギクリ。と、

心のどこかでそんな音が鳴った。



たった今ここから逃げ出しないって思っていたところだというのに、既にバレてた。




あれか?部屋のドアを見ていたからか?





軽く動揺を見せる私に対して、春は反応を伺うように私の長い髪を指先で弄ぶ。





「……考えてないけど」

「じゃあなんで、目を逸らすの」





アンタの目を見ると心拍数が上がるからです。



………なんて。そんな恥ずかしいことを
この私が言えるはずがなく、


逸らさなければいいんでしょ!と、意地を張って見つめてみるが。





「…………っ」





ほら。やっぱり勝てない。



私は春とのにらめっこに勝てる気がしない。




目を細めているくせに、なんでこうもその瞳に色気を感じるのか。


ほんと……不思議だと思う。





じわりじわりと熱くなっていく身体。



お酒を何杯か飲んだ後のような、なんだか頭がポーっとする。



恋をすれば大抵の人はこんな感覚に陥るのだろうか。







「凛」





春は私が視線を逸らす度に名前を呼び、どこかに向いた意識をまた自分へとあてさせる。



にらめっこが苦手なくせに、名前を呼ばれる度にちゃんと向き直ってしまう私も私だ。


呼ばれたら振り返る。もはや癖になっている。





(だから…ダメなんだってば、にらめっこは…)





本日何度目なのだろうか、見つめ合い後に視線を逸らす行為。何度繰り返せば気が済む?




負けを確信しながらにらめっこを行った結果、やっぱり負けて視線を逸らす。



が。





「ごめん」





目の前のコイツから唐突に謝罪の言葉が聞こえては、逸らした視線は一瞬にして元の位置へと戻された。





「……なに、が?」

「ごめんね」





二度目の謝罪。



会話になっていない気がする。


何の話?何の謝罪?




……なんで、苦しそうなんだろう。


沈痛な表情を浮かべる春を見ると、さっきまでの逸らしたいと思う気持ちはどこかへ行ってしまった。