酔いしれる情緒




*****





「あれ、今日はタートルネックなんすね?」

「…………………」





昼休憩が終わったあと、ストック整理をしていた私の元に慎二くんがやってきた。


どうやら今から勤務らしい。





「別にいいでしょ。邪魔。」

「冷たいっすね!」





邪魔だって言ってるのに、私と同じようにストック整理を始めてるし。




ジトーっと見つめれば





「店長に頼まれたんっすよ!ストック整理やってきてって!」

「…………………」





ストック整理に2人もいらん。




ここの店主は今誰が何をやっているかなんて把握していないから、適当にストック整理って言ったのだろう。


さっき「私やってきます」って言ったばかりだぞ。







溜め息をつく私に対し、慎二くんはなぜか上機嫌で。





「そういえば安藤さん!
あれ、知ってるっすか?!」

「………なに」





ほんと、上機嫌だな。


声が大きくてうるさい。





「昨日、隣駅の居酒屋に紬ちゃんと一ノ瀬櫂が来てたらしいっすよ!」





ピタリ



自然と動かしていた手の動きが止まる。





「やばくないっすか!?隣駅っすよ!あーー!昨日その辺歩いてれば良かったー!!」





………だから上機嫌なのか。


近い場所に有名人が来ていたから。



しかも、慎二くんが会いたいと言っていた子が来ていたのだから。





「2人、付き合ってるんすかね?」

「………さあ、どうなんだろうね。」

「美男美女だし、ありっすけどね~」





止まっていた手を再び動かして、ストック整理を再開させる。



仕事中だ。ちゃんとしなきゃ。




そう理解しているつもりなのに、何度か本を落としかけた。




なんだ、これ。


何を動揺してるんだろう、私。








「やっぱり俳優さんとか女優さんって、
カップル役した同士が実際にもひっつきがちっすよね~」

「………そうだね。」

「あー!羨ましい!一ノ瀬櫂!!俺も紬ちゃんと付き合える人生を歩みたかったっす!!」





1人で騒ぐ慎二くんを横目に、ストック整理を途中まで終わらせた。





「じゃあ私は売り場戻るから」

「了解っす!」





残りは慎二くんに任せてその場を後にする。





(隣駅の居酒屋…)




ずっと冷たい対応をしていたものの、しっかり話は聞いていた。




昨日酔って帰ってきた春。


一緒に飲んでいたのは、桜田紬?




………それは、2人っきりで?





「…………………」





なんだろう……すごく、ムシャクシャする。