「おはようございます…」




落ち着かない気持ちのまま、いつも通りの時間に出勤する。




「おはようございまっす!」




今日も昨日と同じメンツで、もちろん慎二くんもいる。




「今日もやけに寒いっすね!」

「そうだね。」




できれば今日、休みたいくらいだった。


朝からあんな事に気づいてしまい、未だに整理はついていないから。



軽く息を吐いてマフラーを外す。


早起きしたくせにあの件のせいでボー…としてしまって、気づけば家を出る時間になっていたから慌てて髪を結んだ。


たぶん乱れているだろうと思って、もう一回結び直そうとした時。




「あれ、安藤さん彼氏いるんすか?」

「えっ?」




なんで、急にそんな事を。


視線を鏡から慎二くんへと移す。



だけど、目は合わない。


だって彼の視線は私の首元にあるから。






「それって……キスマークっすよね!!」

「はっ…?」




何言って……



ちょっと興奮気味に言ってくるから、馬鹿馬鹿しいと思いながらも鏡でその場所を見る。




「…………、はっ?え、は?」




何度、見返したか。



だって慎二くんの言う通り


その部分は蚊に刺されたように赤くなっていて


この時期に蚊に刺されるなんて滅多にないし、




「………、あっ…」




そういえば昨日……春に噛みつかれた気がする。




「えー!やっぱりそうなんすか!!」

「いや、違うから!!」

「隠さなくてもいいんすよ!」




全然聞く耳を持ってくれない。




「安藤さん、彼氏さん妬かせたんすか〜?」




ニヤニヤと口角を上げて言ってくるコイツにイラッときてしまった。






「だから違うって言ってるでしょ。まず彼氏いないし」




あっ、まずい。

この言い方はまずい。



私はいつも口走ってからそのことに気づく。




「それって……セフレかなんかってことっすよね!」




ほら……やっぱり。


そう誤解させてしまうんだ。



もうコイツに何を言っても無駄だと悟った私はとりあえず放っておくことにして、




(なんでこんな所につけんのよ…!)




今度は春に対しての苛立ち。



カッターシャツの襟でギリ隠せるような場所じゃないし、今日はもう髪の毛を下ろして隠すしか……




「セフレさん、結構大胆なことするんすね」

「うっさい。」




早くコイツを黙らせたい。