「さっき食器棚を見たら、奥の方にお揃いのコップがあったからさ」
「……」
「春香にもそういう人が」
「……もう家でなきゃ、仕事遅刻しちゃう」
「春香?」
不自然に立ち上がった私を、ユキが不思議そうに見上げる。
でもダメだ、この質問は。すぐにこの場を離れたい。
「待って春香」
「ユキ、人って聞かれたくないことの一つや二つあるでしょ?」
「……」
「そのグラス、処分するから。もう触れないで」
別れてからも、なぜか捨てられなかった。あの人とのペアグラス。
忘れたいのに忘れられない。私を縛るあの出来事。その傷に、触れられたくない。
食べ終えた食器を片付け、鞄を持ち玄関へ。
いつも私が怒り出すとしつこく後を追ってくるユキも、今日ばかりは追ってはこなかった。
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