「忘れ物はない?」 「うん。元から僕、荷物少なかったし」 ────お昼過ぎ、ユキが遂に家に帰るときがやってきた。 玄関でユキはモッズコートを着てボストンバッグを肩に掛けると、口角を上げた。 私は、別れ難くなってしまうから駅までは見送らなくていいと言われている。 背筋を伸ばしたその姿を見ると、どうにも込み上げるものがあって、私はユキから視線を外す。 ユキもそれに気が付いたのか、玄関で靴を履く前に私の手首を引き、力一杯抱き寄せた。