「……じゃあさ、僕がああしてなかったら、あのままだったってことでしょ?」
「……」
「大人には大人の世界があるんだね、分かった。僕が子供過ぎたのも……でもさ」
ジャリッと、ユキがコンクリートの地面を踏みしめる音が路地に響いた。
次の瞬間、顔の両側の壁にユキの骨ばった大人のような大きな手がつかれた。
ドクンと心臓が音を立てる。
「あの、上司だかなんだか知らない男も、春香をこうしたいって思ってたはずだよ。子供の僕にも分かる」
「……な、に言ってるの?」
「大人の世界とか、どうでもいいよ。だけどそれ以前に春香は女でしょ?」
「っ」
────やめて。
「ああやって肩を抱かれたら……相手が何を考えてるかをさ、怒りとか常識とか正義感以前に考えて。警戒心を持って」
「……」
「……春香?」
私を、ユキの前で女にしないで。私を異性として心配なんてしないで。
境界線を、易々と越えようとしないで。



