「アサギ、今日も綺麗だ。そして実験No.1925ツヤ、お前はいつになったら帰ってくるんだ。お前はこの実験で唯一成功した貴重な実験体なんだぞ。……あの弱かったカスミとは違う」

男性は、白髪の女性の絵を愛おしそうに見つめながら言う。その二枚の絵のそばには、バツ印のされた絵があった。白髪の長い髪を持ち、二人と同じ赤い瞳をした女性の絵だ。しかし、バツ印のされた絵を男性が見ることは一度もない。

男性の呟く言葉は、全て雨音がかき消していった。



アレス騎士団に所属しているイヅナ・クリアウォーターは、自身の武器である薙刀を握り締め、意識を目の前のことに集中させていた。

イヅナの目の前には上司であるツヤ・シノノメが不敵な笑みを浮かべて立っており、緊張した空気が漂っている。

アレス騎士団の任務がない時の団員の過ごし方は様々である。趣味を楽しんだり、体を休めたり、特訓をしたり、様々である。

「さあ、どこからでもかかってこい」

ツヤがニヤニヤと笑いながら挑発をしてくる。イヅナは頭の中で瞬時にどう戦えばいいのか考える。まっすぐ突っ込んでいけば、間違いなく負けてしまうだろう。任務がない今日、イヅナは上司であるツヤに稽古をつけてもらっている。