愛する者の浮気。それは絶対に許せなかった。だからこそ私はその現場に乗り込もうと、使い慣れた包丁をカバンに忍ばせた。もう、こんな屈辱的な感情を味わうのは、これで最後にしたい。心にその誓いを立て、私は浮気現場という魔境を目指したのだ。

「ついに……ついに、現場を抑えたにゃん! あにゃた、どうして、そんな女と一緒にいるにゃ!? 私だけを愛してるって言ったのは嘘だったにゃ!」

 魔境に踏み込んだ私は、カバンという鞘から魔剣を引き抜くと、愛する物へとその刃を向けたのだ。

「ま、待つにゃ! これには、海より深い事情があるにゃ! だから、落ち着いて欲しいにゃん」
「事情って何にゃ! 私をもてあそぶのが、事情にゃの? こんな生活……耐えられないにゃ」

 震える魔剣を両手で抑え、愛する者の元へ切っ先を向けたまま駆け出したのだ。私は愛する者に引き寄せられ、その胸元に魔剣を突き立ててしまった。これで、地獄の日々から解放される、私の中にようやく春がおとずれたのだ。