名前を答えるだけなのに考えるっておかしな話。普通に「坂下彩織」って答えればいいだけなのに。
坂下……自分でそう名乗ったことはない。
2学期が始まって、苗字が変わったことは先生が説明してくれた。それを知らずに「香月」と呼ばれても、否定することはしなかった。
まだ自分の名前として浸透していない。
「……彩織です」
少し悩んだ後、私は名乗った。
「サオリちゃんかー……じゃあ、『サリーちゃん』だ」
「え?」
「ニックネーム」
まさかニックネームをつけられるとは思わなかった。
香月の香を取って「香ちゃん」や彩織だから「サオ」「さっちゃん」と呼ばれたことはあっても、「サリーちゃん」は初めて。
……なんだか。
「外国人みたいですね」
「そう?俺的には結構ビビッと来たけどなー」
また新しい名前が私に誕生した。
「サリーちゃん」──私には不似合いな可愛らしいあだ名だけど、嬉しかった。



