彼しか知らない私のあだ名。 彼がつけてくれた特別なあだ名。 呼ぶ声に誘われて、手すりから顔を出して下を見ると……桜を散りばめたような髪をした男の人が、こちらを見上げていた。 遠い世界にいる人が、どうしてか私のあだ名を呼んで、私を見ている。 ────日南先輩。 「……っ」 言葉が声に乗らない。 ……なんて答えればいい? ……なんて言えばいい? 返事すればいいの? 「そっち行っていい?」 ……え。 日南先輩が死角に消えて、階段を上がって来る。 どうしよう……まだ、心の準備ができてない。