「暁、すまん。ちょっといいか」


襖を開けて、暁を呼んだ暮人さん。


今から登校するところだったけど、私たちはピタリと足をとめた。


「先行ってろ」


暁とつないだ手がぱっと離される。


昨日の朝も、一昨日の朝も、その前の朝も暁は暮人さんと話してた。
なんの話をしてるのかはわからないけど、いつも長く話は続いている。


だから私は暁より先に学校に行っていて、今日は久しぶりに一緒に行けるかと思ったんだけど……無理だったみたい。


シゴトの話、してるのかな。
……それだったら仕方ないか。



「うん。じゃあね」


暁に軽く手を振ってから、私は靴を履く。


外へと行こうとした時に、ぐいっと手を引っ張られ──。

彼のほうに引き寄せられると、目の前にできた影。


唇に伝わる熱。



「忘れもん」


唇に熱が伝わったのは一瞬。
彼は私から離れて口角を上げる。