「……稲森」
低くなる岳の声のトーン。
紫乃は顔を上げて、岳と目を合わせた。
「岳様は私の上司です!上司と部下が一緒の部屋で一晩過ごすなど、そんなことはあってはいけないんです……!
部屋割りの変更ができないのであれば、私はロビーで寝ます!岳様は──」
「命令だ。部屋で寝ろ」
紫乃の言葉を遮った岳。
“命令”という言葉に紫乃はピタリと動きを停止。
岳のことを慕っている紫乃だ。
その言葉には弱いんだろう。
それを岳はよくわかってる。
「……すみません、岳様。いくら岳様の命令といえどそれは……」
「お前がそこまで嫌なら俺が部屋を出てく」
「えっ!?な、なぜそうなるんですか!?私は岳様と過ごすのが嫌なのではなくて──」
「じゃあ早く来い」
ため息混じりに岳は返すとまた紫乃の腕を引っ張って立たせる。
ぐいっとさらに強い力で引っ張れば、今度こそ部屋の中へと連れ込まれた紫乃。
紫乃はまだなにか言っていたけど、私は笑顔で手を振って、開いていたドアをすぐに閉めた。



