な、なんでここに虎がいるの……。
そんなことより、先に逃げなきゃ。
死ぬってわかってても逃げて生き残れるとしたら……?
逃げよう。
この判断だけは早かった。
カチカチに固まっていた体を無理矢理捻り、私は駆け出した。
怖くて後ろは振り返られないけど、足音と低いうなり声が聞こえ、追いかけられていることはわかる。
速く逃げなきゃ……。
どこに行っていいのかもわからないから適当に走り、足が縺れそうになりながら必死に踏ん張る。
複雑に組まれた木の幹のせいで、追いつかれそう…。
どれくらい走っただろうか。
もう、体力が……。
上手く息も吸えなくなって意識が朦朧としてくる中、私は地面に這いつくばるようにして倒れた。
瞼が重くなって目の前には真っ暗闇が広がった。
目を閉じる前に見た光景もやはり、森が広がるばかりで、一向に抜け出せなかった。
最後の薄らとした意識で考えた。
虎の足の速さには敵わないはずなのに、何故私は意識が途切れるまで逃げ切れていたのか……。
そこで悟った。弄ばれていたのだと。
今度こそ、深い闇へと逆さに落ちていった。