「私……もうだめかも…」
丘に出ようと戻って歩いても森から出られない。
どうしよう……。
とりあえず、歩いて足が痛くなってきたし、何より感情が疲れたから休もう。
木の幹に背中を預けて座った。
辺りから人の声も気配も感じられない。
聞こえるのは風の音と葉同士が擦れ合う音だけ。
人がいないってこんなにも心細いんだ……。
あんな風に罵られて馬鹿にされてても寂しい、とまでは思わないけど、でも……。
私ったら、だめだなぁ…。
人を求めてるなんて。もしかしたらまた“愛情”をもらいたいなんて望んで…。
そんなの叶うわけないってずっと前にわかったはずなのに。
私が望んでるのは「愛情」そして、「普通の生活」。
それが叶ったら家族がほしいなって思う。
あくまでも優先順位は普通の生活ができてからだけど。
私は家族に捨てられたも同然で一人で暮らしてるけど、自分の家に家族がいるって言うことは心から満たされることなんだと思う。
それに愛情なんて味わったことない。
けど、私がもらうにはもう遅いかなって思うから、私の代わりに誰かにこの愛情をあげたいなって。
そう思える“心の余裕”が欲しいんだと思う。
……いや、良く考えれば1度だけある。愛情をもらったことを。
もう深い深い海の底に沈みきって掬うことすらできない。けど、今も鮮明に覚えている。
心が温かいものでいっぱいで、悲しいことなんて知らなかったし考えられなかった。
あれは母が壊れる前の思い出。壊れてからは……もう考えたくない。
あの時に戻れたとしても私は無力なのを思い知るだけ。
戻りたくてもできない虚しさ。
この未練は一生忘れない。
とりあえずこの状況からどうしようか考えなきゃ。
自然の音たちのおかげでいつの間にか落ち着いていた。
この森から抜け出したいけど、こんな広い場所で下手に動けない……。
さっきだって迷ってこの有様なのに。
ガサッ
ん…?
私はいち早く反応した。
草むらがガサガサと音を立てて揺れている。
何か、いる…。
ガサガサッ
な、何…怖い……。
心拍数が有り得ないくらい速い。
ドクドクと私の胸を痛いくらいに叩く。
そんな時ぴょん、と小さな影が飛び出してきた。
「っ…!!!」
息の根が止まるかと思った。
目線の先には私をくりっとした瞳で見つめる小動物がいた。
「うさぎかぁ……」
情けない気の抜けた声が出た。
めっちゃびっくりした…。焦った……。
あれっ…?
「この間のうさぎだー」
足に靴下を履いているようなうさぎ。
こんな偶然あるのかな。
珍しいこともあるんだな~と関心していると、何かを感じた。
この違和感はあの木……ひっ…!!
そこにはここにいるはずのない者がいた。
驚いて体が固まった。
その者は、私が気付いたとわかると獲物を狙うかのような眼をして距離をつめてくる。
頭の中が真っ白でどうしたらいいのかもわからない。
ギラリとした迫力のある瞳。
黄金色に輝く体には斑点の模様がまばらに広がっている。
そう……“虎”だ。
私はこの時に死を覚悟した。
いや、確実に死ぬんだと思った。



