* º ~ º *
「これでSHRを終わります」
担任の一言で一気に教室が騒がしくなる。
それぞれの友達同士で、遊びに行く?とか一緒に帰ろーなんて言っている。
いいな……私も友達とそういうことやってみたかった。
でも当然、そんなことを言い合える友達なんていないし、不運なことに居残り…。
気分がまた下がったけど、仕方なく立ち上がった。
「おい」
私はあの先生のところに行かなきゃ。
「おいお前」
あの先生って名前なんだっけ…。
関わりないと思ってたから覚えなかったんだ。
「おいっ!! 葉月!」
「…!」
急に声を荒げた人に周りの目が集まる。
は、はづき? 今この人、葉月って言った?
葉月は私だけど……この人、誰?
いかにも、ヤンキーですって言っている見た目。
ピアスをたくさん付けて、髪色は金。
目が私をギロリと睨みつけているみたい。
つり目気味だからなのかな。
というか、なんで私に話しかけたの…?
誰も私に話しかけようとしないのに。
怖さよりも疑問の方が大きかった。
「ちょっと来い」
「え…?」
その言葉を理解するには時間を要した。
この不良はそれを知る由もなく、私の腕を掴んでどこかに連れて行こうとしている。
触られたところから反射的に嫌悪感が広がる。
「っ…えっ…ちょっと…! い、嫌です。無理です」
反応は遅れたが、ハッとして私が抵抗すると腕を掴んでいた力が緩んで、私は不良から離れた。
どうせ掃除の押し付けか、こんな不良たちな何かされるしかないでしょ。
今は一人でも、待っている不良仲間がいるに決まってる。
ちゃんと相手を疑え、私。
連れて行かれたら終わりだ。それだけはわかる。
「いいから来いって」
そう言って近づいてくる不良を拒絶した。
「無理って言ってるじゃないですか!」
たまらず叫んでしまったけど、周りの目なんて気にしない。
「じゃあ何で無理なんだよ!?」
何故か逆ギレしてくる不良。
「私には居残りがあるんです。あなたの都合なんて知りません。他の人に言ってください」
居残りがあって逆に助かったかもしれない。
「居残りだってー」
「あはっ、可哀想」
周りからあざ笑うような話し声が聞こえてきて俯いた。
墓穴を掘っちゃった…。
きっと、この人も…同じ。
「あ…?」
「…私のことなんかほっといてください。これで話は終わりですね、さようなら」
「ちょ、待てって…!」
不良に有無を言わさず、一方的に話を終わらせた。
「あ”ぁーもう!!」
その叫びで地ならしが起きた。
小走りで走り去る私の背後で、ものすごい威圧感がここにいる誰もを支配した。
「お前ら黙れ。そんな幼稚なことしてゴミクズ以下だな」
私の足がピタリと止まる。
「その詰まった耳をかっぽじって良く聞け。人の価値はお前らが決めるもんじゃねぇ。誹謗するお前らの方が可哀想で仕方がねぇよ」
心が洗われていく感覚がした。
「お子ちゃまはとっとと失せろ」
その言葉で人がそそくさといなくなっていった。
立ち止まって呆気にとられている私の肩に手が乗る。
全身の毛が逆立つ。
この場に気まずい空気が流れていたのだろうが、私にはすっきりした感覚と胸の奥に鐘の音が鳴り響いていた。
「おい」
慌てて動き出す私。
小走りでその場から離れる私の後ろから早歩きで近づいてくる。
こっちは小走りなのに、不良は早歩き…!?
足が長いのか…。
まあ身長も180センチくらいありそうだし、何より……顔がいい。
だけど何気に顔が整っているのがムカつく。
「居残り終わるまで待っとくからな!」
私に逃げ場を与えようとはしてくれないみたい…。
また腕を掴まれたが、私はその手を振り払った。
「触らないで!」
そう叫ぶように言うと、不良の足が止まった。
助けてもらった身なのに……失礼なことしてる。
ごめんなさい……。どうしても、だから…。
その時に一瞬だけ見た表情は何故か傷付いたような悲しそうな複雑な顔をしていた。
「……私に話しかけない方がいいですよ。気持ち悪いじゃないですか」
向こうからの返答はない。
「あの、でもああ言ってもらってすっきりしました。ありがとうございます。嬉しかった、です」
ぺこりと頭を下げた。
何でかはわからないけど、とても悲しくなって私は背を向けて走った。
それでもあの不良は追いかけてはこなかった。
バカみたい……。そんなのとっくに諦めてるのにな。
居残りが終わっても人気のない校舎が見えるだけ……。
また、期待しちゃった…。
哀れだな、私。



