* º ~ º *
真っ暗なまどろみの中にいるみたい。
どんどん引き込まれていって、沼の中にいるかのように体は重たい。
「ミ…リじ…ない、ぼ……の、だよ」
何か黒い者が近づいてくる。
やめて、来ないで…。
体が拘束されているみたいに動かない。
頬に生きている人の体温とは思えない冷たい手が添えられた。
心がヒヤッとした。
「君は僕のだよ」
はっと目が覚めた。
上体を起こして周囲を見ると、薄暗い部屋に寝かされていた。
すべての家具が大きく見えた。まだこの猫の姿のままなのか…。
私には少し硬めの質感の青い毛布がかけられており、何かの毛がついていた。
「犬……」
ゾクッとした。
ここは私の知らない場所だ。
ノアに会いたい。知らない場所で独りなのは嫌だ。
ノア、怪我…私のせいで、、大丈夫?
大丈夫だよね、きっと。死んじゃったら嫌だよ…。
どうしたらいいの私……。
情けないほどに弱い。
今まで独りは慣れてたはずなのに、少しの間温かいものに触れてたから…。
もう温かいものなんて浴びれないし、恵まれもしない。
私が弱くて、逃げてばかりでごめんなさい、ノア。
もう頼らないから、だからどうか生きててほしい。
もう関わらないから……。
身を縮こませて数分。扉から発せられた音に体は大きな反応をみせた。
ガチャッ
!!!
「起きた?かわい子ちゃん」
貼り付けたような笑みを浮かべ、私に近づいてくる。
彼がベットの周りに敷かれているカーペットに足を踏み入れた瞬間、私は反射的に発した。
「にゃふー!」
(そこから私に近づかないで)
妙な感覚から咄嗟に口が動いていた。
彼は裏があるのは確実だが、読めない。
裏はとても黒いのだ。怖いし、信用できずに気が抜けない。
どことなく違和感が拭えない。何なんだろう…。
「僕の部屋なのにひどいなぁ~」
嫌われたくないし、まあいっか!と明るく言い、ソファーにもたれ掛かった。
「クソ猫…あ、間違えた。ノアくんのところに帰りたい?」
く、クソ猫…?
覆い隠すことのない黒い仮面に眉をひそめる。
「とりあえずさ、その見た目気に食わないから変えるね」
「に…?」
何かにふわっと包まれ、体がずっしりと重くなったのを感じた。
「い、犬…?!あっ!!」
言葉が喋れるようになってる!
「私をノアのところに帰して!」
「うーん、それはできないなぁ」
「なら人間の姿に戻して」
猫より大きくなったものの、人の姿より小さいから落ち着かない…。
それに毛が目に入って痛い。
「グチグチうるさいなー」
「えっ…?」
さっきまでの面影はどこへ行ったの…?
冷めた目つきの読めない表情で距離をつめてくる。
「こ、来ないで…」
彼の手が私の頭に触れた。
全身の毛穴という毛穴から汗が噴き出す。
「僕はレピだよ。君の名前は?」
「……風音」
ふーんと見定めるように私を観察してくる。
「…巫女」
ピクッ
「当たり?どんな力を持ってるのかな?」
頭の毛をくるくると指に絡ませている。
「………」
黙り込む。