「…家に着くぞ。俺がどうにかするから何があっても黙ってろ」



確実にコクリと頷いた。



ガチャッ



乱暴に開けられたドアの向こうに、パニック状態になっている猫たちがいた。



バンッ



ノアはそんな猫たちを見向きもせず、えげつない音を立てて戸を閉めた。


大きな音に皆体をビクッと反応させた。



「大人しくしてろ」



何かを決心したように落ち着いた声で吐き捨てた。



ノアはドアを力強く押さえる。

するとドアには鈍い音が走る。


咄嗟に傍にいた猫に乗っかるように抱きついてしまった。



「ごっ、ごめんなさい…」



小声で謝るが、猫とは離れない。



ヴー



怖い顔をして威嚇する準備をしている猫たちの姿も見てとれる。



ダンッ


ダッ


ドカッ



何度も鈍器に殴られているかのような音を響かせるドア。


ドアを押さえているノアの額には汗が滲んできていた。



「っ……」



ノアが何かを決心したように私に口パクで伝えた。


それを見て、少なくとも私には『かざね、さわぐなよ』と言っているように思った。



ノアが私に向かって手のひらを向ける。


それに従うように、ノアが段々大きくなっていく。



「……??」



始めは状況が読み込めなかった。


360度、色々見てみると、目の前には私が抱き抱えていた猫たち。

上には遠くなった天井。

下には人の手ではなく、黒色の毛に覆われた手。


そう。私が猫となり、小さくなっていた。



「にゃっ…!?」



そんな悲鳴と共に、戸は破壊音を轟かせ崩れあがった。


激しい突風が私たちを襲う。

威嚇していた猫さんたちが吹き飛ばされ、私を下敷きにしていく。


ノ、ノア…!


吹き飛ばされていくノアの姿が視界の隅に入った。


その瞬間、砂埃が目に入って顔を伏せた。

涙の膜は、今にも流れ落ちそうな雫となった。



反響した音が建物内を駆け巡り、まだあの凄まじい爆音は耳に残っていた。


そして、辺りは静まりかえった。


そこでハッとした。

そうだ、ノアは…!?


うっ、目が痛い…。


キョロキョロと見渡す中で、脱力した体を壁にもたれかけて、どこかを睨んでいるノアの姿があった。


良かった、無事だ。

痛む瞼を押さえ、安堵する。


横から何かの気配を感じて、私は崩れた体制から姿勢を整えた。


ぼやけた視界には、砂埃から怪しい影がむくりと起き上がったのが確認できた。


その者は確実に近づいてきていた。



「ノアくん、君のところに可愛い子が新しく来たらしいじゃん」



昼間の柔らかい光に照らされ風になびくブラウンの髪に、当然のごとく付いてある犬の耳。

黄色みがかった金色の瞳からは人懐っこさが引き出されている。



「僕にも紹介してよ」



ニコッと微笑む笑い顔からは、欲望に塗れた闇深さが覗いていた。