私は人をあまり信じたくない。


心を許すということは弱みを握られることにもなる。


いつ裏切られてもおかしくない状況で人を信じるなんて嫌だ。


……そんなことは散々見てきた。


だからこそ、信用しないと決めている。



「俺は……」



彼の言葉に耳を澄ませる。


これで私の道は大きく左右される。



「別に」


「…! ほんとに?」


「二度も言わねぇ」


「………」



ノアが良いって言うなら後は私の判断だけ。


私は、どうしたいの…?


ノアに付いていくのなら衣食住は保証されると思うけど、危険はもっと広がるかもしれない。


それでも、行きたいって思う…?



「私は…」



決めた。


人が信じられなくても自分を信じる。



「あなたに付いていく」


「そうか」



それだけを言い、一足先に行ってしまった。


え…? 私、行くって言ったよね…?

も、もしかして置いていかれる…?


待って……私道知らないよ…。


取り残される私に焦りが蓄積されていく。



「みゃ~ん」


「ん?」



私の傍に三毛猫がいた。



「可愛い…どうしたの?」



って話しかける場合じゃない。


ノアに置いていかれた…道わからないのにどうすれば……。


ハッとしてまた焦る私にお尻を向けてノアの行った方向を顎でしゃくった。


おっ…?



「案内してくれるの?」


「みゃん」



可愛い姿に、思わず顔が綻ぶ。


良かった、迷子にならずに済む。


腰を持ち上げると、下半身の筋肉が張っているのがわかった。




先頭で軽い足取りで進んでいる三毛猫さんに訊いてみる。



「ノアって人間?」



三毛猫さんは首をこてんっと傾げた。



「猫?」



またもや首は傾げられたまま。


同じ猫さんでもわからないのかな…。


本人に訊くのが一番手っ取り早いか。

後で説明するって言ってたし。



…というか、全然遠い。遠すぎる。

まだ付かないのって怪しむくらい遠い。


こんな距離を私は歩いてきたんだ…。


びっくりする。どんな機動力持ってるのよ…。



「にゃんみゃーみ」


「んー…なぁに?」


「みゃにーん」


「うーん、わかんないや…ごめんね」



言語が違うから何言ってるのかわからない。


こういうとき相手の信頼関係とかで会話ができるんだろうな…。


ニュースで話題になってた。

10年近く共にしてきたペットと飼い主が意思疎通できているってニュース。

その理由は信頼関係だって書いてあった。



「猫さん同士って仲良い?」


「にゃみにゃ」



少しふてくされたような喋り方。


猫同士でも不仲とかはあるんだね…。


当然のことだ。同じ生き物なんだから。


やっぱり、生き物はいつになっても変わらない。

それが良いことでもあり、悪いことでもある。




また倒れちゃうかも……。


それくらいの疲労を体は感じていた。



「…ご、ごめん、っ…もうげん、かい……」



私の声で振り向いた三毛猫さんが駆け寄ってくるのが見えた。


限界なんてとっくに迎えていた。


それでも耐えてくれたこの体は、たくさんの経験を重ねて、いつの間にか忍耐力が身に付いていたんだと思う。



段々消えていく、狭霧のような取り止めのない意識に身を委ねた。