「…それはできない、です」
少ない時間で素早く出した答えがこれだ。
にもかかわらず、ノアは私の言葉を理解したのか怪しいくらい素早く言った。
「そんなことは知らん。付いてこい」
なんててわかりやすい俺様並みの自己中なんだ…。
自覚があるのかはわからないが、素直に引く。
「…何が目的ですか」
私はノアを警戒している。
一度会話を交わして危険そうじゃなくても関係ない。
これによって私の身に何かがあってからは遅い。
私の安全は第一だけど…ノアが何考えてるか知らなきゃ。
「詳しい話は向こうでする。だが、その調子だとだめそうだな」
私のことはお見通しみたいだ。
「軽く説明する。一回だけしか言わないからな」
強く念押すように言われた。
「風音を連れ戻せとジュリから言われた」
それを告げられたとき、音という概念がないほど世界から音が消えた気がした。
私は阿呆な顔をしながら、得も言われないほど呆れた。
「……言われた、じゃなくて連れ戻さなきゃいけない理由を教えてもらっても?」
棒読みで読み上げるように訊ねた。
「それを言われただけだから俺も知らん」
そのノアの一言で最大の過誤に気が付いた。
私の発言には誤りがあった。
ノアは本当に俺様で自己中なのかもしれないが……一番の自分勝手で自己中なのはジュリなのかもしれないということだ。
何も説明せず人をこき使っているのは、ジュリだからだ。
私の中でのジュリの印象は最悪だ。
それと……心に引っかかるもの…。
「ノアは、私がいて不快じゃない…?」
みんなにとって私は邪魔だった。
異端な容姿、不気味な雰囲気。
ゴミのような存在で、いなかった者のように扱われ、視界には一切入らなかった。
……私は悪い意味で認知された。
私には何してもいいんだと、みんなそう思っていたであろうから。
だから……たくさんの罵声も浴びてきたし、殴られてどれだけ叫んでも周りには愉しむような笑みばかり。
誰も助けようとはしてくれなかった。
いじめてこなかった人も自分が標的になるのが怖くて遠巻きに眺めては、目を逸らして…。
でも、あの人は違ったなぁ…。
あの不良。
私に話しかけた挙げ句、私に触れてきた。
きっとあれは悪い話をするつもりじゃなかったんだと後々気付いた。
だからと言って無理矢理連れて行くのはどうかと思うけど…。その時、私は人に敏感になりすぎてた。
その根拠は最初の態度が他の人とは大違いだった。
それに蹴ったり、殴りもしなかった。
いつもだったら教室だろうが廊下だろうが構わずされるから。
ノアもそう。
私の眼は自分が見てもおかしいのに、当たり前のように認めてくれてる。
…だから、そんな人たちを信じそうになる。